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1.宮島口から船に乗って約10分、日本三景の一つに数えられる安芸の宮島に着く。ご存知、海に浮かぶ大鳥居は世界遺産にも登録された厳島神社のシンボル。なんと海底に固定されているのではなく鳥居自体の重みで立っているそうだ。 2.巨石や石燈篭の配された約700坪の日本庭園を離れがコの字形にぐるりと囲む。この宿に客室数僅か10室、内7棟が離れ宿というからかなり贅沢な空間。 3.センスのいいパブリックスペースが敷地のあちこちに。日中でもほの暗い通路、漆黒の敷き瓦が足元灯の明かりを受けて艶っぽく光る。旅館の通路とは一味違う、どことなく路地裏を歩く風情。家庭から消え去ってしまった陰影がここには残っていた。 4.露天風呂には温度の異なる2つの湯舟。四季折々の草木に見守られて入浴する。檜をふんだんに使った内湯もある。 5.なんといってもこの宿は美食の宿として知られているわけです。この宿の名物、牡蠣の六角焼。六角石の小鉢の中でぐつぐつ煮えながら運ばれてきたのは名物の六角焼。牡蠣の柚子味噌かけと、黒鯛のホワイトソースの二種。亭主が考案したこの宿の人気の一品 6.別注文のオコゼの薄造りをオーダーしました。見てくれの酷い魚の中には、その見かけとは似ても似つかないような、上品な味の魚がある。見かけからは想像もできないような、透き通るような白身。あさつきを芯に巻いて、ポン酢をほんの申し訳程度つける。その繊細な味を追いかけて、キュッと噛みしめるとほのかな甘みが漂いだす。肝はバターのようにまったりと。皮のにこごりはゼリー寄せに。上品な脂がたっぷりのっているからこその品。 7.実はこの宿には安庵という隠し部屋がある。基本的には主人のプライベートの場所であるのだが…。なにやら古い離れ屋敷を昭和の趣に手を入れて、1階は貸切の露天風呂。2階がプライベートなバーのような状態になっている。 8.ぽかんとした時間を2階で過ごす。渋いジャズの音色を響かせながら、本をぺらぺらめくってみたり、椅子に腰掛けて静寂の夜景を眺めたり。そして“気が向いたら”くらいの気持ちで湯舟につかる。主人のプライベートルームだからといって主人が入ってくるわけではありませんのでご安心を。 9.もともと岩場だったところをくりぬいてつくった天井の低い隠れ家のような床下サロン。古いものから新しいものまで椅子が数脚置かれ、ここに腰を下ろせば何時間でも過ごしたくなる場所。洋酒類もおいてあるから、酒好きならば尚更のこと。 10.日中の陽光、夕刻、篝火とライトアップそして朝日を受けて浮かび上がる棟棟(写真)、石亭の姿は時間とともに刻々と変化していく。背後には屏風のように切り立った経小屋山。その山裾は、石亭の庭へと続き瀬戸内海へ向かう。もちろんその先には宮島が横たわる。素の自然が仮想の自然を飲み込んで生まれる壮大なスケール感は圧巻。
長い間思い焦がれた宿についにいってまいりました。世界遺産、厳島神社を有する安芸の宮島は、神が宿るとされる信仰の島。石亭の庭から見るその島は他の小島とともに青い瀬戸内にぽっこり浮かんでいるように見え、近くで見るのとは少し違う表情を見せてくれる。 さてその桁外れともいえる庭園が圧巻です。屏風のように切り立った経小屋山を借景に、巨石や石燈篭の配された約700坪の日本庭園。そこを離れの棟々がコの字形にぐるりと囲む。7棟の離れを含め、ここに客室数がわずか10室しかないというのはすぐにはピンとこないほどのスケール感だ。石亭は美食の宿として知られている。特に牡蠣好きにはたまらない宿だ。瀬戸内海の幸を中心に、出来立ての料理を部屋に運んでくれる。華美に走らず、味のある器に引き立てられ、盛り付けられ、見え隠れする風情。何度でも味わいたくなる様な、奥行きのある味。さて、スライド中に紹介した隠し部屋「安庵」だが、営業目的でないから料金はかからないが、逆にお金を払えば利用できるという場所でもない。なにかの拍子に「もしよろしかったら、どうぞ」とスタッフから案内されるのだ。古い離れ屋敷にセンスよく手を入れて、1階は貸切の露天風呂、2階がプライベートなバーのよう。興味があれば問い合わせてみると良いでしょう。最近、「その宿がその宿である理由」が見えなくなってきている気がする。デザイナーズっぽい旅館がメディアに頻繁に取り上げられてるとくれば、他の旅館もワーッとそっちへ流れていき、プライベート重視の宿が流行っていると聞けば然り、露天風呂付きの客室がとくれば然り。 どうも金太郎飴のような…。「結局どこも同じではないか」バブルを期に、多くの宿屋が家業から企業へと姿を変えた。外部のコンサルタント、プランナー、広告代理店と協力して綿密なマーケティングと十分な資金を元に、流行りの要素をつなぎ合わせて一番儲かりそうな装置を作り上げる。しかしどんなに流行っていても名宿と呼ばれることは無いだろう(ビジネス面だけを考えたら、名宿という称号はさほど重要ではないのかもしれない)。炭に火がつくように長い時間をかけてその評判が全国に広がっていった石亭のことを思うとそう感じずにはいられない。石亭の代わりを果たせる宿は、おそらく無い。もし希望の日が取れなければこちらの都合を合わせよう、そんな気にさせる宿だ。流行のバリ風アジアンテイストや田舎演出の宿ではない。これ見よがしに部屋付き露天を謳い文句にした宿でもない。およそ、現在流行っている宿のキーワードを売り文句にはしていない。それなのに連日満室続き。流行に流されるのではなくしっかりとお客の心と向き合ってこそ、時代を超えて名宿と称されるのだろう。創業者でもある先代から「庭を守れ」「宿を大きくするな」という言葉とともに宿を引き継いだ現亭主、上野さん。時には番頭さんと間違われるほどよく動く人。掃除機を動かしていたかと思えば、送迎のハンドルを握り、気がつけばお客と談笑している。「このやり方でいけるって思うまで10年かかりました」と振り返る。この宿には家業としての姿が残っている。それは「もてなし」などという宿のパンフレットに書かれてありそうな言葉では言い表せないもの。ここで一夜の滞在をしてみると、帰りがけに次の予約をしたくなる気持ちがよくわかる。そして帰りにぜひとも立ち寄りたいのが、「あなごめし うえの」。宮島へ向かう船の発着所ちかく。素通りを許さない匂いが道路に漂い、あなごめしを求める客が店の外まであふれている。実はここ石亭と同じ経営。
新幹線の中であなごめしのほおばりながら、あの宿で過ごした幸せな時間を思った。