1.磨きこまれた床を素足でぺたり歩く、約150年前の新潟の庄屋を移築したロビー。ぴっかぴかに磨きこまれた床板は黒光りを放ち、見上げると煙に燻された塗壁と無骨な梁や桁が行き交い、妖しい陰影が生まれる。チェックインの頃にはジャズが囁きはじめた。 2.客室は古民家の部屋のような造りで、ほとんどの部屋には囲炉裏が備わっている。この日の宿泊はちょっと奮発して土蔵の離れ。1階が囲炉裏の間で、2階がベッドルームのメゾネットタイプ。あまり広くはない分、篭る気分が楽しい。 3.近くの山中に自生していたという樹齢400年を超える高野槙の古木で組上げた湯船はすごい風格。かすかなイオウの香りが鼻腔をくすぐる。連れはそのぬるいほうで顔を洗ったらしく「洗っている間から肌が面白いことになる」とご満悦。(写真は男女別の内湯 4.ドアを外に出ると露天風呂。 5.通路を通って少し高台へ行くと山小屋風の貸切風呂と、家族風呂。風呂あがり、そよ風に吹かれながら歩く竹林の通路は言い表せない心地よさ。悦楽の域。 6.こちらは離れにある男女別の露天風呂。同様の貸切風呂もある。 7.夕刻にいっそう味わいを深めるエントランス。 8.食事どころは個室になっていて、囲炉裏では既に岩魚が串焼きされている。ここで頂くのは飛騨の山の素材をつかった懐石料理。手持ちのついた籠風の器に前菜が運ばれてきた。鱒の手毬寿のなんとかわいらしいこと。 9.極細に切られた蕎麦は口の中で清々しい。菜の花、うるい、岩魚、ミツナ、えのきの入る「つみくさ鍋」のふたを開けたときの香りが忘れられない。薄味に徹して旬山菜の味と香りを際立たせる土瓶蒸しのような楽しみ方。付近に生えている山菜を板場が山へ分け入り摘んでくるそうだ。 10.飛騨牛ステーキは塩、コショウで味付けされていて、軽くあぶるだけでうまい。本当に旨い肉ならこの食べ方が一番ではないだろうか。まわりはパリッと炙ってあって中はミデアムレア。やわらかくてジューシー。デザートはりんごのムース。
木の質感とこの炭の焼ける匂い安堵を覚えるのは日本人の心に巣食う郷愁だろうか―――。郷愁といえば、この小さな山村は、昔からあまり時計の進んでいないのどかな土地だ。小さな山村に、釣り糸が垂れるのどかな光景。車の通りがほとんど無くなったところに広大な敷地を有し、まわりには民宿が数件あるものの、ほぼ一軒宿のように建っている。高速道路の最寄のI.Cからは車で約50分、決して便利なところではない。加えて周りには便利などなにも無い山の中。その代わりに、自分の居心地のいい場所を探そうと思えばいくらでも見つかる。ゆったりとした温泉三昧。何にも無いことを期待して、その分この素晴らしい隠れ里の温泉を存分に楽しんでしまおうではないか。