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部屋に戻ると、部屋の前の小さな庭がライトアップされていて、八重桜が漆黒の夜に浮かび上がっている。

 

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食べ切れなかったご飯はおにぎりにしてスタッフの方が部屋に持ってきてくれた。
正確にはこれおにぎりではなく”おにぎらない”という最近のはやりのものらしい。

 

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もう起きてられないと悟り、名残惜しいが布団で寝ることにした。
布団はもう一枚下にクッションがあるといいな。体重の重い僕は畳の固さが腰と尻に伝わってします。

 

 

 

 

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気持ちいい朝だった。
部屋の庭に出てみた。向こうには田んぼが見える。ここはまるで離れだな。

 

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さて朝風呂は部屋のお風呂に。

このお風呂は温泉ではなく、いまいち食指がうごかなかった理由がそれだったが、これはこれでよかった。温泉であるに越したことは無いのだがクレンジングみたいな意味合いで、ニュートラルなお湯にはいるのも気持ちいい。

 

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お風呂から見える小さなお庭

 

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八重桜を浮かべてみた。

 

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自分にはよく分からないが、シンクが二つあるのがありがたいらしい。

 

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昨晩と同じ個室で朝飯。

 

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「あ~、やさしい味」

朝から品数たくさんの料理。会話の隙間をホーホケキョの声が埋める。

 

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あさりの味噌汁はコンロで熱々。

 

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鳥あそぶ、山間の陽だまり

寺泊名物の「魚のアメ横」はもう何度も訪れているので、そこはさらっと流して早めにチェックイン。
欲深い僕らは、宿にいる時間ちょっとでも長くしたい。
ここは寺泊の海岸から車で5分ほど山間へ登る。田舎道の傍にひっそりと佇む一軒宿が北新館だ。車を停めると「ホー ホケキョッ」との声が響き渡った。
「前に来たのいつだっけ?」
前回「のどか」の部屋で朝風呂を浴びているときも野鳥の声が聞こえていたことを思い出したのだ。

15:00前だったので一番乗りだろうと思ってたら、欲深いお仲間が他に2組いらっしゃた(笑)。GW序盤だ。混んでいるのかもしれない。
今回予約したお部屋は「桃かをる」という、2011年にオープンした特別室だ。東日本大震災の年だったのでよく覚えている。
連れの反応は芳しくなかった。
「温泉じゃないのかぁ。」
”部屋のお風呂が温泉ではない”、というのが冴えない理由だ。
なにしろ連れのお気に入りは温泉の引かれた「のどか」の部屋なのだから。
スタッフの方に案内されて主室のドアが開く。
光が目に留まった。
庭に向いた窓から今日の仕事をだいたい終えようとしている陽光が余力のような強さで広縁を温めている。
「窓に西陽が あたる部屋は~」
と歌い始めた自由すぎる連れをよそに、ぼくはこの光景を絶対に写真におさめようと慌てて荷物の中からカメラをごそごそと探し始める。悪い病気に呆れた連れは部屋を物色し始めた。
トイレを覗いて、風呂場を覗いて、ベッドリームを覗いてその様子から「これはこれでいいかな。」と思い始めてるのが伝わってくる。そりゃそうだ。雰囲気はいいし、隣の部屋と壁で接してないのでプライベート感の高さはたまらない。部屋のスペースは「のどか」より、二まわりほどゆったりしている。僕らは広すぎる部屋は落ち着かなくて好みではないがこの部屋は「今日はちょっと贅沢してるぞ」と思わせてくれる広さだ。ただし温泉じゃないからと言って固形の入浴剤が置いてあったのは受け入れられなかったようだ。僕も使わないだろう。

桜のお茶と笹だんごを食べながら、さっきまでいた魚のアメ横の人ごみがどこか遠くの出来事のような静けさだ。窓の外は庭。庭と言っても後ろに迫る山との間にある小さなもので、その山から野鳥が遊びに来る。

 

八重桜うかべて

気持ちよく目が覚めた。
窓を開けてみると右手でホーホケキョと鳴けば、左手からピッピーピピピと応える。キキヒョエー。チチピーチチピーと声は近い。小さなオーケストラだ。しかも人懐っこい野鳥がいて窓際に来てくちばしで窓をコツコツ叩く。ヤマガラという野鳥のようだ。

部屋のお風呂にお湯をためて朝風呂。
頭の中で昨晩の料理を味わいなおす。
mpのようなおとなしめにスタートした料理は、刺身の盛り合わせ、海鮮しゃぶしゃぶと進むに連れて盛り上がりをみせ、「プハ~っ」と音がしたので顔を上げると、刺身のイカをビールで流し込んだ連れがそこにいた。「わらびのお浸し、やさしい味~」とか言ってたのがウソのようだ。
アワビに濃厚な肝バターソースのかかったやつを口にしたときはもう、はしゃぎだしそうだった。

窓を開けて湯に浸かると窓の外の八重桜が湯の上でユラユラ。必死に息を殺して湯に花を浮かべてみる。これが温泉だったもっといいかもしれない。でもこの沸かし湯の、「洗い流してくれる感じ」だって、この朝の気分の立役者な気がする。

山から遊びに来た野鳥が視界のスクリーンの右から左に残像を引く。野鳥が飛び去った場所で小枝が揺れている。
椿の花から抹茶色の鳥が飛び立った。
「ウグイス?!メジロ?!」

ここはまるで離れだなと思った朝だった。

 

 

 

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